Q. わが社は、旅客運送業を営むものです。先日、飛行機に搭乗しようとした旅客がマスクの着用を拒否したため、機長がその旅客を降ろしたというニュースを聞きました。弊社で同様の事態が起きた場合、乗客の下車を要求できますか。また、一般の店舗でマスクの着用を拒否する客の入店を拒むことはできますか。
A.
マスクの着用を拒否しただけでは、乗車を拒むことは難しいと思われます。一般の店舗については、基本的に入店の拒否ができますが、感染症予防の目的を説明し理解を求めるべきでしょう。
【ポイント】
1 旅客の運送引受義務
タクシーや乗り合いバスへの乗車の意思を示している人に対して、乗務員が正当な理由なく拒否することは、「乗車拒否の禁止」として、道路運送法13条及び同条第6号に基づく旅客自動車運送事業運輸規則(以下「規則」と言います。)13条で禁止されています。
タクシーや乗り合いバス等公共交通機関の営業は、輸送の安全性の確保、事業遂行の適切性、自ら的確に業務を行う能力の確保を図るために許可制となっており、公共交通機関として旅客に対する運送引受義務が課せられているためです。したがって、運送業では規則に規定のない理由で乗車を拒むことはできません。
では、Covid-19等の感染症予防のためにマスクの着用をお願いし、拒否された場合は乗車を拒むことができるでしょうか。
2 タクシーや乗り合いバスの場合
前述のとおり、乗り合いバスやタクシーの運転手には、運送引受義務がありますが、例外的に乗車を拒める正当な理由がある場合が、規則13条所定の1から5号までの事由として規定されています。感染症の予防という点では、5号の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に定める一類感染症、二類感染症若しくは指定感染症の患者又は新感染症の所見がある者」に当該乗客が該当することが必要です。乗客が単にマスクの着用を拒否しただけでは足りず、一見して病変があると認められるようでなければ拒むことはできません。
3 飛行機の搭乗拒否について
ご相談のあった、先日の飛行機の搭乗拒否の報道は、マスクの着用を拒否した旅客にその理由の説明を求めても答えなかったため、機長が降機をお願いし、当該乗客がこれに従ったというものでした。従って、機長は強制しておらず、任意に降機されたケースとみることができます。定期航空協会及び全国空港ビル事業者協会のガイドラインでは、マスクの着用は「義務ではなく、お願いすること」になっており、サーモグラフィによる「体温測定の結果、37.5℃以上の発熱があり、咳や倦怠感等の症状が見られるなど感染症が疑われる場合」は、搭乗のとりやめを要請することがある、とされています。
航空機のような密閉性の高い空間であっても、マスクの着用を拒否しただけでは、搭乗を拒むことができるとはしていません。
4 一般のお店について
許可制による営業ではない一般のお店の場合は、来客との契約の自由がありますので、基本的には入店拒否は可能です。但し、感染予防のためであり、他の差別的な理由と受け取られないよう、店舗の目的や換気の状況、入店を希望する客の状態等の理由を総合的に説明できるよう対応することが必要と思われます。