1 はじめに
⑴ 面会交流(親子交流)とは、子どもと離れて暮らしている父母の一方が子どもと定期的、継続的に、会って話をしたり、一緒に遊んだり、電話や手紙などの方法で交流することをいいます。
⑵ 夫婦としては離婚(別居)することになったとしても、子どもにとっては、どちらも、かけがえのない父であり母であることに変わりはありませんから、夫と妻という関係から子どもの父と母という立場に気持ちを切り替え、親として子どものために協力していくことが必要です。
⑶ ただし、面会交流の具体的方法を定める法律は存在しないため、細部の調整は当事者の協議に委ねられます。
裁判所や弁護士が入って仲裁を試みたとしても、紛争当事者である夫婦間で面会交流を円満に実施することは至難と言える現状があります。
2 離婚の実情
⑴ 厚生労働省の「令和4年度「離婚に関する統計」の概況」によれば、同居から5年未満で離婚する割合が約35%、同居から5年以上10年未満で離婚する割合が約20%であり、離婚する夫婦の大半は同居から10年以内に離婚しています。
⑵ 結婚・育児を経験された方は想像できるかもしれませんが、出産を契機に夫婦仲が悪化することは、ある程度一般的な事情と思われます。育児によって体力・時間・経済のあらゆる面で余裕が失われ、夫婦間のトラブルが続発し、愛情が冷めてしまうからです。
⑶ 愛情が冷めた夫婦のうち、我慢の限界を迎えた夫婦が離婚を選択します。近年は女性の社会進出が進んだことで、以前よりも男性が育児を担当する機会が増えています。夫婦双方が子供に対し強い思い入れを有しているため、苛烈な子供の奪い合いが生じてしまいます。
⑷ これに対し、どちらの親が子供の親権者(子の監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限を有する者)として適切であるかの具体的判断基準は法律で定められていません。そもそも、親の優劣を外部が判断することが困難です。
また、多数の家事事件を抱える裁判所において、一つの事件に割けるリソースは限られており、隅々まで調査して結論を出すことは不可能です。
そこで、実務上は、まずは夫婦間の協議で親権者を決めさせる、それが無理であれば子供の養育環境に問題がなければ現状追認(子供と生活している親が親権者として指定される)という内容で親権者を判断しているケースが多いように思われます。
なお、民法改正があり、令和8年中に共同親権制度が開始される見込みです。
⑸ 上記状況下で親権者が決まっていく一方、親権者となれない親(未成年者と生活できていない親)について面会交流の実現が問題となります。
3 面会交流の実施に伴う問題点
⑴ 法律上、別居親には面会交流権が認められています。虐待やDVといった問題が存在しない場合、裁判所も面会交流の実現を後押ししてくれます。
⑵ しかし、現実には、以下のような点で面会交流の調整がつかず、面会交流が実施困難となります。
① 面会交流請求親から子供への虐待や当事者へのDVを受けていたとの主張がなされ、確実な証拠が存在しないものの、そのような主張を無視できない場合。
② 虐待やDVは存在しないとしても、相手への嫌悪感等を理由に、当事者間における面会交流の日程調整や、面会交流機会の立会を拒否される場合。
③ 調整を試みたとしても、面会交流の具体的内容(日時、場所、頻度、立会人)についての調整がつかない場合。
⑶ 裁判所は面会交流の実施方法や内容について絶対的基準を有していないため、当事者間での協議によって解決を目指すことになります。裁判所は、子供と暮らしている親に面会交流に協力するよう説得してくれますが、相手が裁判所からの説得を頑なに拒否し続けた場合、面会交流が実施できないことになります。
⑷ 事案によっては、裁判所が、面会交流に応じない親に対して、制裁金を課して心理的圧迫を加えることによって、面会を促す方法を採ってくれることがあります。しかし、面会交流の実施そのものを強制する手段ではないため、実効性は100%ではありません。
⑸ 以上のとおり、面会交流に関する現行の法制度は不十分であると思われます。
4 子供を紛争に巻き込んでしまう問題点
⑴ 面会交流は紛争当事者である夫婦の争いが主となりますが、面会交流に参加する子供にも負荷がかかります。
⑵ 面会交流に否定的な親の中には、「子供が面会交流を望んでいない」という主張をする方が多くいます。
しかし、夫婦は互いに弁護士に依頼して自分の意見を述べられますが、子供個人の意見は表に出てくることがなく、子供の真意を明らかにすることは困難な状況にあります。
裁判所の職員が子供と面談する制度はありますが、短時間の面会で子供の真意を把握することは困難です。面会交流に否定的な同居親から干渉を受けている子供や、逆に、裁判所職員の誘導に乗せられてしまう子供もいます。子供の真意を把握することは著しく困難であると思います。
⑶ また、前述したように、面会交流に否定的な親に対し、裁判所が制裁金を課して面会交流実施を強制する手続きに移行した場合、子供が真意で面会交流を拒んだとしても、子供を説得できなかった同居親が悪いとして、制裁金を課されてしまうこともあります。
現状の制度では、最後は硬直的な処理をせざるを得ない状況にあります。
5 弁護士の苦労や行政に対する期待
⑴ 上記のように、昨今の離婚事件では、親権者の指定と面会交流が大きな争点になっています。
そして、事実上、子供と暮らしている側の親が主導権を取ることから、子供と暮らしていない側の親の依頼を受けた場合、その希望を叶えられないことが多く、依頼者のストレスも過大となります。
⑵ 私個人は、子育てをしている父親として、虐待やDVのない事案は、できる限り面会交流を実施すべきという考えです。
そのため、子供と暮らしている側を受任した場合は、本人の負担にならない範囲で面会交流に応じるよう依頼者にお願いします。
また、子供と暮らしていない側を受任した場合には、できる限りの努力をします。やむを得ず、休業日である土日に当事者の面会交流に立会ったこともあります。
⑶ 長々述べましたが、面会交流については、現状の法律や裁判所では十分な対応が不可能と思います。また、弁護士個人が対応することにも限界があります。
そこで、ぜひ、行政の皆様においては、各自治体の子育て施設を利用し、面会交流のコーディネート事業を開始してもらいたいと思います。行政の方が、①面会交流の日程調整を仲介し、②面会交流の場に立ち会う(施設であれば、通常の入退室管理で十分)ことで、これまでとは格段に面会交流の実施が容易になります。
⑷ 離婚を前提とする時点で前向きではない施策かもしれませんが、離婚はこれからも減ることはなく、離婚を前提に制度設計をしてもらう必要があります。
面会交流できない親、不当な面会交流要求を受ける親、面会交流問題に巻き込まれる子供も社会的弱者といえます。ホスピタリティの一環として、面会交流支援は合理的と思います。ぜひ、面会交流支援事業を検討して頂きたいと思います。