
1.はじめに
中小企業の多くは所有と経営が一致しており、事業継続のためには後継者等への株式の移転が必要不可欠である。また、複数の株主が存在している中小企業にとっては、将来的な事業承継を見据えて、事前に株主の整理を視野に入れることも必要である。
株式の移転や株主の整理を実施していく上で、その時期及び方法等の選定は重要な課題であるが、特に株価の決定は最重要論点である。近年は、少子高齢化等による経済成長への期待感の喪失、法人税率の引き下げにより、企業の内部留保が増加傾向にあるため、純資産価額が増加し、株価が高騰しているケースもみられる。事業承継税制により先代経営者から次世代経営者への株式移転のハードルは著しく下がった。しかし、実務的にはキャピタルゲインの精算を希望するケースや経営者以外の株主からの買い取りが必要なケースも存在する。その場合、個人が買い取りをするには多額の資金調達が必要となり、返済に合わせて個人所得の増加を図るにも累進課税の壁があるため、返済原資の確保は容易ではない。従って、個人での買い取りは非現実的なケースもあり、実務的には買い取り資金を確保しやすい発行会社が自己株式として取得するケースも増加している。
小職が業務を行ってきた経験上、株主と発行会社が独断で実施した自己株式の取得事例では、取得価額の算出があいまいであり、時価との乖離が発生しているケースも散見される。ここで改めて自己株式の取得価額が時価と異なる場合の課税関係について考察していく。なお、考察に当たってはグループ法人税制の適用については考慮しないものとする。
2.発行法人における取り扱い
発行法人にとって自己株式の取得は、資金の流出、資本の減少を伴うものであり、通常の株式売買とは異なり、会社法によって取得の手続きが定められている。また、会社法において配当可能利益を超えての取得は規制されている。
発行法人側では、自己株式の取得価額が時価と比べて著しく高額、または低額であっても、取得価額で純資産の部に計上される。また、自己株式の取得は、資本等取引以外の取引とはならず、税務上は、取得価額のうち資本金等の額を超える部分は配当金の払い出しとして処理され源泉徴収義務が生じる。高額取引により違法配当が生じた場合には、金銭等の交付を受けた株主、それを決議した機関、取締役等に賠償責任が課せられ、最低でも配当可能利益の金額を超える部分については金銭を支払う義務を負うことになるが、取引自体が無効となることはないと考えられている。
3.譲渡者の課税関係
(1)譲渡者が個人である場合
①時価より高額で譲渡された場合
前述のとおり時価よりも高額で譲渡されたとしても、高額な部分も含めて発行法人の資本金等の額を超える部分はみなし配当とされ、総合課税の対象となる。交付を受けた金銭等からみなし配当を控除した金額が株式の譲渡価額となり株式の譲渡所得が計算される。
②時価より低額で譲渡された場合(時価>譲渡価額≧時価の50%)
譲渡価額が時価より低額、かつ、時価の50%以上の譲渡価額が設定されている場合には、時価で譲渡した場合と同様、交付を受けた金銭等からみなし配当を控除した残額が株式譲渡に係る収入金額となる。
③時価より著しく低い価額で譲渡された場合(時価の50%>譲渡価額)
時価の50%を下回る価格で譲渡された場合には、みなし譲渡(所法59①)となり、時価相当額が当該譲渡に係る収入金額とみなされる。みなし配当については、実際の譲渡価額に基づいて計算され、時価からみなし配当を控除した残額が株式譲渡に係る収入金額となる。
(2)譲渡者が法人である場合
①時価より高額で譲渡された場合
個人の場合と同様に、高額な部分については、みなし配当となるため、譲渡価額よりみなし配当を控除した金額から、譲渡株式の取得価額及び譲渡費用を控除した金額が益金又は損金となる。
②時価より低額で譲渡された場合
時価と譲渡価額との差額は、譲渡法人の寄附金に該当する。みなし配当については、実際の譲渡価額に基づいて計算される。時価よりみなし配当を控除した金額から、譲渡株式の取得価額及び譲渡費用を控除した金額が益金又は損金となる。
4.譲渡者以外の株主の課税関係
発行法人の自己株式の取得価額が時価と乖離する場合には、自己株式を譲渡した株主とそれ以外の株主との間において、譲渡前後で株式価値の移転が生じる場合がある。この場合に株主間贈与も考慮する必要が生じる。
株主間贈与の課税関係については、ケースに応じてそれぞれ次の通りとなる。
(1)低額譲渡による個人から個人に対する株主間贈与
譲渡前後で譲渡株主以外の個人株主が保有する株式の時価が増加するため、時価増加分についてみなし贈与が発生する。
(2)低額譲渡による法人から個人への株主間贈与
所得税法上、特段の課税関係は生じない。
(3)低額譲渡による法人から法人への株主間贈与
法人税法上、特段の課税関係は生じない。
(4)高額譲渡による個人から個人に対する株主間贈与
個人株主が、自身が持つ発行法人の株式を自己株式として発行法人に譲渡した場合には、他の株主からその個人株主に対する贈与が発生すると考えられるが、それほど問題になることはないようである。
(5)高額譲渡による個人から法人に対する株主間贈与
遺贈があった場合を除き、法人税法上、特段の課税関係は生じない。
(6)高額譲渡による法人から法人に対する株主間贈与
法人税法上、特段の課税関係は生じない。ただし、支配関係法人間での実質的な利益移転を認定されるケースもあるため、取り扱いには慎重を要する。
以上のとおり、個人間で利益移転が起きるケース((1) 及 び(4))については、みなし贈与が発生し、贈与税負担が発生する可能性があるため、特に注意が必要となる。株主間贈与という課税関係は納税者側にとってはなじみが薄く、私たち専門家からの助言が重要であると思われる。
5.まとめ
自己株式の取得に際しては、税法上のみならず、会社法上の規制も受ける。法人税法の観点からすれば、発行法人においては資本等取引に該当し、また、みなし配当も考慮すべき点から、通常の株式の移動に比べ課税関係が煩雑になる。
ケースによっては「みなし配当」のほか、前述のとおり個人株主が時価の50%未満で発行会社に譲渡した場合には「みなし譲渡」、さらに譲渡者以外の株主への「みなし贈与」の課税関係が発生し、多額の税負担が生じる恐れもある。
資本政策や株主の最適化は中小企業が事業を継続していく上で、非常に重要であるが、自己株式の取得は法人の資本の払い戻しであり資金の流出を伴うことから、企業の存続を見据えた上できちんとした資金計画の下で行われなければならない。さらに予期せぬ課税関係の発生でさらなる資金の流出が無いよう、時価の算定についてはわれわれ税理士も、正確な知識と情報を得て最大限の注意を払って助言を行わなければならない。そのためにも日頃からのクライアントへの情報の提供やコミュニケーションが大切であると改めて認識した。
<参考文献>
・清水秀徳 「自己株式の無償・低廉取得に係る法人税の課税関係」
『税務大学校論叢』 66号 319~382頁(2010)
・伊藤俊一 『[Q&A]自己株式の取得・処分・消却に係る税務』
(ロギカ書房、2023)