Q. 今年の税制改正で国外の中古建物に関する節税スキームが改正されたと聞きました。その仕組みを教えてください。
A.
税金を支払う義務は、全て法律に基づいています(租税法律主義)。しかし、頭の良い人がいるもので、その隙間を見つけ合法的に過度な節税が行われることがあります。
今回は国外の中古建物に焦点を当てて解説させて頂きます。
(1)所得税の仕組み
この節税スキームは、「所得税の計算の仕組み」「日本と海外における文化の違い」の2つを使って考えられたものです。それぞれについて以下で解説しましょう。
(2)税率の違い
所得税は、基本的に所得が高い部分ほど高税率が適用されることになっています(超過累進税率)。
住民税も含めると、最低約15%・最高約55%と税率に大きな幅があります。
但し、株や不動産の譲渡等による所得は、その金額に関わらず一定税率が適用されることとなっており、今回はこの税率の違いを利用して過度な節税が行われていました。
(3)損益通算
損益通算とは、言葉の通りその人の損失と利益(所得)を通算できる制度です。
例えば、不動産投資で1,000万の損失が出たけど、役員報酬の所得が3,000万ある場合、それらを相殺し2,000万の所得に対して税金が計算されることとなります。
(4)不動産投資の経費(減価償却)
投資用建物等を買った場合、その支払額は何年かで少しずつ経費となっていきます。
例えば賃貸用の新築木造住宅であれば、22年で経費となります。2.2億で建てたなら、毎年1千万ずつ経費となるイメージです。
これが「中古」建物となると、その経費化される年数が変わってきます。
例えば築22年を経過した中古木造住宅では、4年でその全額が経費となります。
2.2億で買った場合は、毎年5,500万ずつ経費となるイメージです。
(5)文化の違い
日本では、基本的に建物は古いほどその価値が下がります。これに対し、海外の地域によってはさほど価値が変わらず、むしろ高く売れるケースすらあるようです。
(6)これらを組み合わせると・・・
例えば、多額の役員報酬を受け取っていて、最高税率の55%で税金がかかっています。
1月に海外の中古建物を2.2億円で買いました。家賃収入は年1,000万円で(4)の通り経費が5,500万、つまり、不動産投資で4,500万の赤字が出ており、役員報酬と損益通算します。数年後、建物を売りました。
①購入後4年間
△4,500万×55%=約2,475万の節税(4年で9,900万円の節税)
②5年超経て2.2億(買値相当)で売却
2.2億×20%=4,400万の納税(不動産の譲渡 20%の一定税率)
③トータル節税額
9,900万△4,400万=5,500万
私には縁がないものの、豪儀な話です。
(7)国の対応
今回の改正で、上記のような損益通算は認められないこととなりました。
立法というのはとても大変な作業であり、最初からこのような抜け穴がないのが一番ですが、今回のような海外事情まで考慮するのは非常に困難でしょう。
詳細を割愛しザックリとした計算ではありますが、以上が改正に至った経緯です。今後もこの国の税制が適正なものとなるよう、皆様にもご興味をお持ち頂ければ幸いです。