コラム

Column

多死の時代

2024.11.19

【総選挙を終えて】

石破内閣発足間もない中で行われた衆議院選挙は、与党過半数割れと想像以上に厳しい国民の審判を受けたが、その後の臨時国会における首班指名選挙も決選投票となり、最後は石破氏が何とか再選されて第二次石破内閣がスタートした。一方、米国でトランプ元大統領が再登板するなど、混迷を深める現下の国際情勢や経済情勢の下で日本の舵取りをしっかりと行い、この大波を乗り越えることができるのか不安は尽きない。

今回の選挙で県内小選挙区の自民党議員は全敗したが、私は旧3区の栃尾出身で、当時は田中角栄と村山達雄、1区には小沢辰男など全国的な有力議員がいた。父親もご多分に漏れず熱心な越山会員で、選挙では警察のお世話になったこともあるようだが、ただ、子供ながらに冬になると雪で閉ざされていた国道が、途中から除雪により車が通れるようになり、これも田中先生のお陰だと子供ながらに思ったものだ。

田中角栄は生前数多くの名言を残し、それをまとめた「田中角栄100の言葉」という冊子が我が家にもあるが、「方針を示すのが政治家の仕事、役人は生きたコンピューターだ。方針を示せない政治家は役人以下だ。」「政治家とはつまり事を為すということ。」等々

石破首相は、以前、「自分は田中学校最後の門下生」を自任されていたようだが、コンピューター付ブルドーザーと言われた田中角栄の実行力と機知に富んだ雄弁さを見習ってもらいたい。
有名な逸話だが、石破首相の結婚式の挨拶で「相手は誰かと聞いたら丸紅の社員だという。何!丸紅!ウン丸紅はいい会社だ。私のことがなければもっといい会社だ!」といって大受けしたそうだが、そんな実行力と人間味溢れる魅力的な政治家がもう一度日本に、できれば新潟に現れて欲しい。

 

【多死の時代】

9月に東京でセミナーがあり受講してきた。テーマの一つが「人口2/3激減時代の到来と新成長戦略」というものだった。日本の少子高齢化と人口減少は周知のことだが、講師の話に改めて日本の人口問題の深刻さに驚いた。
明治維新当時3,500万人だった日本の人口は、ピークの2008年には1億2,800万人と3.6倍に急増している。ところが、このピークから約110年後の2120年には4,900万人と1/3に急減が予測(国立社会保障・人口問題研究所)されているという。

この極端とも言える人口動態の背景は、出生数と死亡数による自然増と自然減であり、高度成長期の第二次ベビーブーム時の出生数200万人を山として以降は次の山が来ないまま減り続け、昨年は72万人まで少子化が進んだことが理由であることは間違いないが、それよりも「少死」から「多死」の時代になったことが一番の理由だそうだ。

我が国は国民皆保険や医療技術の進歩により長寿化が進み、高度成長期の年間死亡数が70万人~80万人で推移していたが、世界一の長寿社会を実現した1990年以降は死亡者数が増加に転じ、近年は150万人前後で推移している上、この数字は今後50年間変わらないと見込まれるため、日本の人口はこれから毎年80万人~100万人減少することになる。
このような人口急減と人・資金の東京1極集中と偏在化が同時進行する中で、21世紀の新成長戦略は「人材の質が日本の質を握る」として、①人材流動性と産業の代謝力、②ビジネスゲームチェンジ、③教育と多様性が必要、そんな内容のセミナーだった。

 

【新成長分野】

ところで、「ガイアの夜明け」というTV番組があるが、以前この番組で介護現場における重労働の一つである入浴介助作業が大幅に負担軽減される携帯型の入浴機器が紹介されていた。

製品は家電スタートアップ企業が開発した家庭用掃除機程度の大きさで、体の不自由な人でもベッドに寝たまま体を洗える優れ物。原理はノズルの先からお湯と石鹸を交互に吹き付けると同時に吸引することで布団やシーツなど周囲を濡らさず洗えるほか、ノズルを替えれば髪も洗うことができる。価格は1台20万円弱と手頃な上、一人に使用する水も2ℓで足りることから、一般家庭でも購入できて老々介護にも十分使えそうだ。

この企業の事業方針は、「お客様、顧客企業、地域・社会の“困った!”を解決します。」
を掲げ、まさに日本の深刻な問題となっている介護現場の“困った”をヒントに製品開発に取り組んだという。

日本経済はコロナ禍後のインバウンド需要もあり安倍政権時代に目指したGDP600兆円を昨年超えたが、人口減少社会にあってはいつまでも規模を追うのではなく、少子高齢化社会における新しいニーズをくみ取ってビジネスとするソーシャルビジネスは、経済規模は小さくても豊かな社会に向けた新たな成長戦略と言えないだろうか。

 

【人生のエンディング】

ところで、この春、義母が93歳で亡くなり、これで親と呼べる者はいなくなってしまった。
義母は親戚を頼って戦争疎開したことが縁で湯沢町に嫁いだ人で、明るく何事にもポジティブな人であった。亡くなる当日も体操教室に行く準備をするなど、健康寿命がまさに寿命となった寝たきり知らずの誰しもが羨むような最後だった。

私も来年は古希を迎えることもあり、健康寿命を伸ばすためのジョギングと家庭菜園に勤しんでいるが、いずれは何らかのかたちで介護のお世話になることになる。

介護を巡っては、老々介護や介護職員不足など様々な問題が指摘されているが、多くの人は最後を自宅でと思いながらも、家族の負担等を考えて病院や施設にお世話にならざるを得ないのが現実だと思う。願わくは、いずれ携帯型入浴機器等の助けを借りながら自宅介護が普通となり、最後も自宅で家族に囲まれながら逝く、そんなことを「多死の時代」を迎えた中で考えた。

執筆スペシャリスト

杉野 功
小川会計グループ
税理士法人 小川会計
杉野 功
税理士経験は4年ですが、それ以前は国税の職場に37年間勤務し、主に県内税務署や国税局で法人税調査事務に従事しました。税務調査対応等でお悩みの場合はお気軽にご相談ください。モットーは「主張すべきは主張し、納税は納得して!」。
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