今回は、相続放棄について具体的事例を基に考えてみたいと思います。
【事例】
先月、Aの伯父Bの債権者であるという会社からA宛てに手紙が届き、長らく音信不通であったBが1年前に亡くなっていたことが判明した。Bには、妻子はおらず、祖父母やそれ以上の世代も既に亡くなっており、兄弟は5年前に亡くなったAの父Cのみであるが、債権者によればBの相続人はAであるとして、Bの借金を返すよう要求された。AはBの財産も知らず、Bの借金の返済はしたくない。
1 相続人の範囲
相続人は、①被相続人の子、②①がいない場合は被相続人の直系尊属(両親、祖父母等の直系の上の世代)、③②もいない場合は被相続人の兄弟姉妹とされています(民法887条1項、889条1項)。配偶者がいれば配偶者は常に相続人になります(民法890条)。今回の場合、被相続人であるBには妻子はおらず、祖父母らも亡くなっているため、③に当たるかどうかですが、③の場合、兄弟姉妹が被相続人より先に死亡しているときは、兄弟姉妹の子が「代襲相続人」として相続人になります(民法889条2項)。今回は、Bの死亡前に兄弟であるCが死亡していますので、Aが相続人になります。
2 相続放棄とその期間
相続人であったとしても、相続放棄をすることにより最初から相続人ではなかったものとみなされ、借金の返済義務を免れることが可能です。もっとも、相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に相続放棄をしなければならないとされています(民法915条1項)。「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因事実(被相続人の死亡等)を知っただけでなく、それにより自己が法律上相続人となった事実も知った時を指します。
今回は、Bが亡くなってから既に1年経過していますが、Aは先月届いた債権者からの手紙によってBの死亡とA自身が相続人であることを知ったわけですから、手紙を受領した時から3か月以内であれば相続放棄をすることができます。
3 相続放棄の手続
相続放棄を行うには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述を行い(民法938条)、家庭裁判所に申述が受理される必要があります。
なお、遺産分割協議書を用いて遺産分割をしたが自分は何も相続しなかったという場合は、相続放棄ではありません。相続分をゼロとする内容で遺産分割をしたのであって相続人であることに変わりなく、債権者から請求されれば支払わなければなりませんので、注意が必要です。
家庭裁判所にて相続放棄の申述が受理されたら、「相続放棄申述受理通知書」が届きますので、この通知書の写しか、裁判所から「相続放棄申述受理証明書」を取得して債権者に送付すれば、これ以上債権者から返済を求められることはないと思います。
4 相続放棄の撤回は可能か
相続放棄はたとえ3か月の期間内でも撤回できないことになっています(民法919条1項)。よって、例えば、後日借金の額を上回る預金が見つかって借金も完済できるので、やはり相続したいと考え直すことがあったとしても、相続する方針に転換することはできません。
したがって、相続放棄をするかどうか迷うような場合には、被相続人の財産調査等をしっかりと行ってから判断した方がよいと思います。