コラム

Column

採用内定者が新型ウィルス感染症(COVID-19)に罹患した場合の対応

Q.  我が社は、来春採用の社員として、ある学生に内定を出しましたが、この学生は自粛期間中に県外に遊びに出かけて新型ウィルス感染症(COVID-19)にかかり、入院しました。この場合、内定を取り消すことはできますか。

 

 

A.
取り消すことができる場合があります。

 

【ポイント】

1 採用内定の法的性格について

採用内定は、正式な労働契約を締結する以前に使用者がその雇用を約束し、学生も就労の約束をするものですが、その法的性格には「既に労働契約が成立している」とする説と、「そこまでの効力はない」とする説の間で争いがありました。

この点については、昭和50年代に大日本印刷事件の最高裁判例が出され、「大学の推薦が重要な意味を持ち、大学が2社を推薦して、そのうち先に内定を出した企業に就職するよう大学側も指導を徹底していた」事情を考慮し、解約権の留保を認めながら、この当時は労働契約が成立していると判断しました。

 

2 現在の就職活動の実態と内定

現在の就職活動は、上記の判例の時代とは様変わりしています。大学の推薦にかつてのような重要性や学生に対する指導力はなく、学生も内定獲得後に別の企業への就職を決めて他の内定を断ることが少なくないようです。

こうした実態に照らして考えると、現在では内定に強い拘束力はなくなっていると言えるでしょう。

 

3 採用内定取消事由

しかし、学生にとって、内定をもらっていながら企業からこれを自由に取り消されるようなことがあっては大きな不利益になります。そこで、前記最高裁判決では「採用内定の取消事由は、採用当時(使用者側が)知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる場合に限られる」としました。

これを踏まえ、内定の取消事由(①卒業できなかった場合、②内定後病気などにより著しく健康状態が悪化し勤務に耐えられないとき)を内定通知に予め記載することが一般的です。

 

4 採用内定取消の判断について

この学生が、COVID-19の感染・発病により必修科目の出席日数が不足した場合は、①学校を卒業できないものとして内定を取り消すことはあり得ますが、法定伝染病として公欠扱いになれば卒業可能な場合もありますので、十分な確認が必要です。

また、この学生に基礎的疾患があり、COVID-19の感染によって就労に耐えない後遺障害が発生した場合は、②内定後病気などにより著しく健康状態が悪化し勤務に耐えられないものとして、内定を取り消すこともあり得ます。

①や②の事由がなく、「自粛期間中に県外に遊びに出て感染した」という事実だけを理由に内定を取り消すことは難しいと思われます。ご注意ください。

執筆スペシャリスト

星野 徹
パートナーズプロジェクトグループ
ほしの法律事務所
星野 徹
弁護士の星野 徹です。 民事代理業(交渉・調停・訴訟)、倒産事件(破産申立・任意整理)、 家事事件代理(離婚事件・相続事件)、刑事弁護が得意です。 また、長岡造形大学で憲法の講師もしています。

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