ご両親の一方(例えば、お父様)が数年前に亡くなっており、このたび、他方(例えば、お母様)が亡くなったという場合、その子である兄弟姉妹同士で相続の話をすることが多いかと思います。
そのような場合によくあるご相談として、以下のようなケースがあります。
<ケース>
・母Aさんと父Bさんの間には、長女Cさんと二女Dさんがいますが、Bさんは既に他界しています。
・Cさんは、Aさんと同居し、Aさんの世話をしてきました。
・Dさんは、Aさんとは別居しており、あまりAさんの面倒をみませんでした。
・Aさんは、日ごろ面倒をみてくれるCさんに対し、Aさん名義となっていた自宅不動産を贈与し、日ごろからお小遣いをあげていました。
・そのうち、Cさんは、Aさんから依頼を受け、Aさんの預金を管理するようになりました。
・Aさんの他界後、DさんがCさんに対し、①Aさんは認知症であり、自宅不動産の贈与は無効である、②Aさんの預金が減っているのはCさんが着服したからであり、Cさんが着服した分について不当利得返還請求権(損害賠償請求権)が発生している、などと主張して、これらの財産を相続財産に含めた額で遺産分割を求めました。
この段階になった場合には、弁護士に相談して対応を任せるしかありません。今回は、このようなトラブルが起きないためにどうすべきか、また、仮にトラブルが起きてしまった場合に備えて、何をしておくべきかという点をご説明したいと思います。
まず、Cさんは、Aさんから自宅不動産の贈与を受ける前に、AさんからDさんに対し、自宅不動産をCさんに贈与すること及びその理由を説明してもらうと良いでしょう。
通常はAさんが説明すればそれで足りると思いますが、Dさんが、後々そのような説明は受けていないと争う可能性もないわけではありません。このような場合に備えて、例えば、AさんがDさんへ電話で説明するのであれば、Cさんにおいて、Aさんの説明を録音しておくことが考えられます。
また、Aさんの預金の管理についても、Cさんは、Aさんのお金とCさんのお金を明確に分けて管理し、Aさんのお金を支出した時は、レシートを残しておくと良いでしょう。例えば、金銭出納帳をつけるのは大変ですが、Aさんのお金を支出した都度、ノートにレシートを貼り付けていくのであれば、それほど手間ではないと思います。
そして、注意が必要なのは、Aさんのお金から支出するのはAさんにかかった費用に限定しなければならないということです。
例えば、Aさんが入院したり、施設に入所したりした場合に、Cさんが面会のために交通費を負担したときは、Aさんの預金から出金したい気持ちになるかもしれません。また、Cさんが、Aさんと同居しており、水道光熱費をAさんの預金口座からの引落しにしていた場合に、引落口座をCさんの名義に変更せず、Aさんの施設入所後もAさん名義のままにしておくことも想定されます。
これらの場合、本来であれば、Cさんが負担すべき費用について、Aさんが負担していることになりますので、これもまた争いになる可能性があります。トラブルになった場合に備えて、Aさんの財産をきちんと管理し、その証拠を残しておくことが必要です。
いよいよAさんの判断能力が衰えた場合には、家庭裁判所に成年後見等の開始の申立てをすることが考えられます。
せっかく長年の間家族として過ごしてきた兄弟姉妹。相続で争うことはないようにしたいですね。