Q. 我が社は、接客を伴う業務をしており、新型コロナウィルス感染予防として、全社員にマスクの着用を義務付けております。
急に暑くなって、マスクをしない社員が増えており、遵守しない社員への処分(懲戒を含む)行うことを検討しております。法律的に問題はありませんか。
A.
いきなり懲戒処分を行うのではなく、注意や指導を行うことが必要です。マスク着用の必要性を理解させるとともに、暑さ対策を一緒に考える等、社員に動機付けを与え、それでも聞かない場合に、段階的に懲戒処分とします。
【ポイント】
1 就業規則の規定について
従業員への懲戒権の行使は、事前に就業規則で懲戒事由が明らかになっていなければなりません。ここでは、一般的に規定されている「非違行為」や「業務命令違反」について検討します。
2 マスク着用の義務の有無(非違行為)
令和2年5月4日、厚生労働省の新型コロナウィルス感染症対策専門家会議は「新しい生活様式」を提言し、日常生活の中で取り入れてほしい実践例を提示しました。外出時のマスクの着用は、この専門家会議の提案であり、法律上の義務を国民に課すものではありません。
従って、従業員がマスクを着用しないことは法令違反ではなく、懲戒事由である「非違行為」とまでは言えません。
3 マスク着用命令とその違反
法律上の義務ではなくても、接客を伴う業務で従業員がマスクを着用しないことは、顧客に与えるイメージを損なうおそれがあります。新型コロナウィルスの特徴として、感染しても発症しない人が一定数いることが分かっていますので、自分は健康との認識であっても、感染源になる可能性を否定できません。万一、御社が感染源となった場合のイメージダウンは非常に大きいと思われます。御社が業務命令として従業員にマスクの着用を命ずることには相当の合理性があり、従業員が正当な業務命令に従わない場合は、業務命令違反として懲戒の対象になり得ます。
4 懲戒の要否・程度の判断について
他方で、懲戒は従業員に対する不利益な処分ですので、慎重な対応が望まれます。また、マスクの供給がまだ十分には足りていない状況や、気温の高い季節を迎えてマスクが熱中症の原因になるおそれが指摘されています。
まず、当該従業員に口頭で注意をくり返し、従わないようであれば指導を行います。指導の際は、その理由を書面で具体的に記載し、日時・場所・注意に対する態度等を記録しておくことをお勧めします。従業員からマスクをしない理由の弁明があれば、対処を一緒に考えて従業員にも協力を求めることが、従業員が指導に従う動機付けとなり、解決に近づきます。
処分の程度は、まず、けん責や減給処分として、徐々に重い処分にします。それでも命令に従わない場合、勤務態度不良で改善の見込みがないとして、普通解雇程度の処分が妥当でしょう。