夏に向かう時期になりますと、ふっと思い出す物語があります。
「夏を制する者は受験を制す」とばかりに勉強漬けだった学生時代に、気晴らしに手に取った一冊がヘルマン・ヘッセの「車輪の下」でした。
(簡単にあらすじを言ってしまうと、田舎で期待の星だった少年が猛勉強の果てに進学した学校で目標を見失い、心を病んだために退学。田舎に帰ったものの最期は事故なのか自死なのかよくわからない死を迎えるという、受験期にけして手に取ってはいけない本ではあったのですが)
新型コロナウィルス感染症の世界的大流行で自粛生活を余儀なくされるなかで、自ら死を選ぶ芸能人の悲しいニュースを耳にすることがしばしばありました。ニュースにはならなくても、名もなき多くの人が学校・職場、その他様々な場面で従前のやり方を変えざるを得ず、ストレスを感じても解消する機会もあまりない、そんな日々だったのではないでしょうか。外部からは推し量ることが難しい、それが心の健康の難しいところです。
「車輪の下」の主人公も田舎に帰りささやかな職を得て、再起を読者が期待したところで人生が絶たれてしまいます。その詳細は作中では触れられてはいませんが、どうしてか結末に納得するような気持ちにもなります。「限界だったんだろうな」と。
皆様はどうぞ心身のメンテナンスを怠らず、コロナ禍からの経済回復期をお過ごしください。私があえて言うまでもなく、心身の健康があらゆる事業活動の資本です。